遠近両用メガネを作る上で重要な要素となる項目はたくさんありますが、その中でも重要度が高い加入度数を解説します。

加入度数はその名の通りメガネに施す度数の事ですので、基本的に測定者にゆだねる部分も多いのですが、仕上がった遠近両用メガネを使いづらいものにしないためにも使用者側でも最低限の知識を持つことは大切です。

加入度数の事を知る上では、測定する加入度数と、遠近両用レンズに施された加入度数の2つの側面から見ることになります。

遠近両用の加入度数とは

遠近両用メガネを作る際には2つの度数選定を行う必要があります。

ひとつは一般的な視力表を用いた遠くを見るための度数の選定です。

もう一つは遠くを見るための度数越しに近くを見ることができるか視力測定をし、視力が充分でない場合、近くが見えるように度数を施していきます。

遠くを見るのに度数が必要ない場合は、俗に言う素通しの状態で近くの見え方を確認します。

このようにして遠くを見るために必要な度数と、遠くが見える度数を基準に近くが見えるように補正した2つの度数を元に遠近両用メガネを作成します。

この遠くの度数と近くの度数の差を読んだものが「加入度数」です。

加入度数は「Add」と略されて表記される場合もあります。addition(追加)の頭3文字からとったものです。

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画像は遠用度数と近用度数の組み合わせで加入度数を選定している2例です。

どちらも片眼だけで表記していますが、実際には左右の目ごとに度数を選定します。

1番目の例の解説

1番目の例は老眼の症状が出るまでメガネを使用しなかった方を想定した度数です。

遠くを見る視力は裸眼の状態でも充分に得られているので、遠用度数は「0」(いわゆる素通し)です。

裸眼では近くのピント合わせができなくなっているので+1.00の度数を選定したと仮定しています。

これを遠近両用にすると遠用度数は「0」、加入度数は「+1.00」となります。

参考までにこの目の方が老眼鏡を作る場合の度数は「+1.00」となります。

2番目の例の解説

2番目の例は近視の方でメガネの常用が必要な方を想定した度数です。

視力はおおよそ0.1~0.2程度で度数が適切なメガネを掛けても、掛けたままでは近くが見えづらい方が遠近両用の測定を行ったようなイメージの度数です。

遠用度数は-3.00で決定後、そのまま近距離用視力表を用いて近くを見るのに必要な視力を計っていきます。

近視の方の場合は度数を落としていくことで近くが見えるようになります。

例では度数が-2.00で近用の視力が得られたと仮定しています。

この-2.00という度数は、-3.00に+1.00を足したことで得られた度数になります。

画像にあるようにこの場合の加入度数は「+1.00」となります。

遠近両用の度数は遠用度数が「-3.00」、加入度数は「+1.00」となります。

近視の方の老眼鏡は正直あまり使い勝手がいいものではないのですが、仮に老眼鏡を作る場合の度数は「-2.00」となります。

必要な加入度数は年々増える

進行の度合いには個人差がありますが、近くを見る=近くにピントを合わせる目の能力は一般的に40代から自覚症状が出始め加齢とともに徐々に落ちていきます。

遠近両用メガネで言うと遠くを見るための度数の状態が変わらなくても加入度数に必要な度数は増えていくことになります。

遠近両用購入から1年ほどでも遠くの見え方が問題なくても、近くが見づらくなることは充分想定できる範囲です。

もともとメガネを使用していた方は老眼になり遠近両用など近くを見やすくしたメガネを使用すると買い替えのサイクルが変わる場合がありますので購入時の費用のかけ方には注意しましょう。

※念の為書いておきますが、近くが年々見づらくなる原因には遠近両用を含めたメガネの使用の有無は直接的な因果はありません。

老眼の基礎知識は別記事にて解説していますのでよろしければ参照してください。

遠近両用レンズ|加入度数が少ない度数のうちに使い始めるメリット

この章からは遠近両用のレンズ側から見た加入度数で知っておきたいことを解説します。

年々手元を見るための度数、遠近両用の場合は加入度数の値が大きくなっていくのは先に述べました。

遠近両用レンズに施される加入度数は値が大きくなるほどレンズの性能上、見え方に「クセ」が出やすくなります。

逆に言うと加入度数が少ないレンズは遠くだけの手元が見づらくなったメガネと、ほとんど変わらない使用感でキチンと手元の視野が広く確保できます。

良く遠近両用メガネにある口コミ、使用感で「ゆれ・ゆがみ」がひどいという話を耳にしますが、ゆれ、ゆがみの原因にはいくつかありますが、まず最初に疑うべきは加入度数の値です。

加入度数が過度な処方(実はこのケースが多い)の場合はもちろん、目の状態に適正な場合であっても、ある程度加入度数が入った遠近両用メガネは、レンズの特性上見え方のクセを感じやすくなってしまいます。

遠近両用レンズで主流の「累進設計」と呼ばれる複雑な仕組みで出来たレンズは独特の使用感があります。

加入度数が少ないうちに使用し始めることでその独特の見え方に違和感を覚えることなく使うことができます。

レンズの規格上加入度数の最小値は+0.75のレンズが多いのですが、+0.75や+1.00で遠近両用を作成できた方はお渡し時から使用していかれる方も多いです。

特に近視の方で老眼の自覚症状がある方で遠近両用の購入を検討しているのなら早めに販売店などで相談されることをおすすめします。

ぜひ、遠近両用のテストレンズにてその使用感と見え方を体感してみてください。

加入度数の値が大きい遠近両用メガネ

一般的な遠近両用のレンズの加入度数は0.25刻みで、+0.75から+3.50まで制作可能なものが多いです。

加入度数の値が大きくなると見え方や使用感にクセが出やすいと述べましたが、これはレンズの設計上でも確認できることでもあります。

加入度数が大きくなりますと、加入度数の小さなレンズと比べ、特に手元の見える範囲が狭くなります。

イメージとしては新聞などを広げて見ても紙面全体が見えるのではなく、見えている視野の一部分にピントが合うような状態です

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Original photo by Ian Lamont

画像は加入度数の大小での近用部分の見え方のイメージです。

どちらも近くの視力は得られていますが見え方の印象は大きく異なります。

一般的な度数のイメージで度数が強く入っているとその分良く見えると思っている方も中にはいらっしゃいますが、遠近両用の近用部は特に、なるべく加入度数を抑える工夫をしないと度数が余計に入った分視野が狭くなってしまい不満足な見え方となってしまいます。

加入度数が大きくなることで視界が狭くなるのは近くに限ったことではなく、遠くの部分の見え方にも影響します。

そして良く言われる「ゆれ、ゆがみ」はレンズの周辺部分に存在するぼやける部分に視線が入ることでも起きます。

ぼやけている箇所はレンズの工学上レンズの役割を果たしていない部分です。

加入度数が大きくなるにつれ、どうしてもぼやける範囲は広くなってしまいます。

初めて使う遠近両用メガネの加入度数が+1.50以上のケース

以前、メーカーの方から伺った話ですが、使用者に適切な加入度数の処方であっても、初めての遠近両用のメガネで+1.50以上の加入度数が必要な場合、なんらかの不満足な評価を訴えることが多くなるとの事です。

言い換えれば、加入度数+1.50の遠近両用レンズには設計上どんなに工夫を施しても光学的に無理な部分が出やすくなるともいえます。

まとめ

  • 遠近両用の遠用度数と近用度数の差を加入度数という
  • 加入度数が少なく済むうちに遠近両用を使用できるのが理想
  • 加入度数に必要な度数は年々増える
  • 加入度数が大きくなることで使用感にクセが出やすくなる